トランクルームは大きな金庫だと思うんです

私の祖父は絵描きだった。あまり有名じゃないけれど、ときどき個展を開いてそこで絵を売ったお金で生活していた。もちろんそれだけじゃ食べていけないので、デパートでお客さんの似顔絵を描いたり単発でイラストレーターの仕事を貰ったりして、それでもやっぱり贅沢はできない生活をしていた。他の家と違って、祖父からお小遣いをもらうことは殆どなかったけれど、私の似顔絵はしょっちゅう書いてもらっていた。小さい頃はそれがとても嬉しかったけれど、年頃になると反抗期ということもあり、照れくささもあり、すっかり絵のモデルになることはなくなっていた。それでも祖父は時々写真を見て私の似顔絵を描いていたようで、祖父が亡くなった後に遺品整理のために行ったトランクルームに私の似顔絵がたくさんあったのを発見したときは涙を堪えることができなかった。

もちろんトランクルームには私の似顔絵だけでなく、色々な絵があった。ピカソが一生で何度も絵描きの手法を変えたように、祖父の手法も色々変わっていることがわかる。きっと名を挙げたくて必死だったんじゃないかな、と思う。ピカソは生きている間に名を挙げたけれど、祖父は結局売れないままだった。でも亡くなったから言うわけじゃなく、祖父の絵は本当に力強くて、でもそれでいて優しい感じがする。こんなにたくさんの祖父の作品が置いてあったこのトランクルームが、まるで大きな金庫のように思える。こんなことなら、祖父ともっと絵の話をしておけばよかった、もっともっとたくさん私の似顔絵を描いてもらえばよかった…。後悔と涙はとめどなく溢れてくる。そうして私は祖父の宝が詰まったトランクルームで何時間も過ごしたのだった。

結局祖父の絵は伯父の家で預かることになり、トランクルームは引き払うことになった。だけどいつでも絵を見に来ていいよ、と言ってくれる伯父の言葉に甘えて、いつでも祖父の絵に会いに行こうと思っている。